12月18日(日)、シンポジウム「性暴力のない社会にするために」を開催しました。
シンポジウムには会場参加24名、オンライン参加67名
計91名にご参加いただきました。
前半は基調講演「性犯罪に関する司法の問題」と題して、角田由紀子弁護士にお話しいただきました。角田弁護士は長年性犯罪裁判に関わってこられました。
後半は性暴力被害の当事者を支援する各専門家をシンポジストに迎え、今回の無罪判決や性暴力のない社会にするために必要なことについて意見を交わしていただきました。各シンポジストはそれぞれの立場から性被害や性暴力に係る社会課題に向き合ってこられました。
今回のシンポジウムについて、各メディアによって報じられています。
(各メディアのアーカイブが終了した際にはリンクを削除します)
- KNB(北日本放送)
- NHK(日本放送協会)
- 中日新聞
それぞれの専門家にお伺いした内容について、要点を絞ってご紹介いたします。
◆ 弁護士 角田由紀子さん
日本の刑法は、強制性交等罪が成立するためには被害者が抵抗するべきとの考えに立っている。これは、本当に被害を受けたのであれば大声で助けを求めるべきとする「強かん神話」に基づくものである。強盗犯に抵抗することは危険であるというのが常識であるにも関わらず、性暴力については抵抗や逃げることを要求している。強かん神話があるべき女性像や家父長制の中で、女性としての義務違反が問われてしまうのが現状だ。
逃げなかった・助けを求めなかったことが、「性行為に同意した」とみなされている。これは、「強い」オスが取りうる、闘うか・逃げるかの選択に沿った、単純で古い生物学的モデルをベースにしている。最新の「ポリヴェーガル理論」では、性暴力被害に遭った時に、凍りつくことが明らかにされている。
2017年の刑法改正の際に決められた、下記の「附帯決議」(法律実施にあたり留意すべき事柄)が守られているか不明である。
一 性犯罪は被害者の人格や尊厳を著しく侵害し、心身に長年にわたり多大な苦痛を与え続ける犯罪であり、厳正な対処が必要であるものとの認識の下、近年の性犯罪の実情等を鑑み、事案の実態に即した対処をするための法整備を行うという本法の趣旨を踏まえ、本法が成立するに至る経緯、本法の規定内容について、関係機関及び裁判所の職員等に対して周知すること。
二 「暴行又は脅迫」並びに「抗拒不能」の認定について、被害者と相手方の関係性や被害者の心理をより一層適切に踏まえてなされる必要があるとの指摘がなされていることに鑑み、これらに関連する心理学的・精神医学的知見等について調査研究を推進するとともに、司法警察職員、検察官及び裁判官に対して、性犯罪に直面した被害者の心理等についてこれらの知見を踏まえた研修を行うこと。
裁判員の意識改革も問題である。裁判員と裁判官は対等な立場でなく、法律の専門家である裁判官の意見に対して裁判員は反対することは難しいのではないか。裁判員の研修はないため、意識改革として社会全体でジェンダー平等を推進し、強かん神話を克服していく必要がある。
◆ 産婦人科医 種部恭子さん【女性クリニックWe富山】
裁判で、外傷を受けたことで暴行脅迫下の性暴力だったことを証明しようとする場合、強制性交等罪ではなく強制わいせつ等致死傷罪を争わなければならなくなり、裁判員裁判が避けられない。しかし裁判員裁判の制度自体に問題があるのではないか。関係者に近い人が選ばれた場合、二次被害は回避できるのか。平日9:00~17:00に参加できる人で構成された裁判員が、偏った判断を生み出した結果が、大多数のジャッジととられてしまうのではないか。ジェンダーバイアスのある社会通念や文化ではなく科学的根拠に基づいた判断を求める。
プライバシーや生活を失うかもしれないという強い不安の中で、性被害の相談をするということだけでも相当なハードルがある。明確な事実に基づく「加害者を処罰して欲しい」という強い意思がないと性暴力の裁判に臨むことはできない。被害者の証言について「疑念が残る」とした裁判官の判断には非常に強い怒りを感じる。
女性は社会的・体力的に弱い立場にあり、被害に遭ったときに闘争・逃走を本能的にあきらめ、フリーズすることが圧倒的に多い。ジェンダーの差を踏まえた上での判断が必要である。理解を求めて戦い続けていきたい。
◆ 弁護士 坂林加奈子さん【被害者参加弁護士】
一審は裁判官の根底にある強かん神話によって結論が決まってしまっている裁判だった。「被害者が自分の意思でした性的行為について、後で後悔していると読むのが自然」「被害者が加害者に対して好意をもっていた可能性を否定できない」など、強かん神話に基づく先入観を形式に当てはめ論理的としただけの強引な結論の付け方だった。逃げられる訳がないことをなぜ想像できないのかが分からない。遠回りかもしれないが、一人ひとりの考え方を変えていくために声を上げていくしかない。
3人の裁判官は主導的にたくさんの質問をする一方で、裁判員は率直な疑問を投げかけづらい空気感があった。裁判員裁判に関しては市民の判断を活かすべき事件とそうでない事件があり、専門的知見が必要な事件について裁判員に理解を求めるのは難しいのではないか。
裁判官は法についての専門家ではあるが、全てのことを知っている・体験している訳ではない。結論ありきではなく、被害者の心理に踏み込んだ判断を求めていく。
◆ 精神科医 本田万知子さん【ほんだクリニック】
裁判官は加害者の証言に信用性がある根拠として、加害者の記憶が明確であること、証言が具体的であることなどを挙げているが、性暴力被害者の心理に関する知見への理解が全くなされていない。被害に遭った時に身体が固まってしまうフリーズは、背側迷走神経の関与による生き残るための反応だと思う。性暴力被害の臨床経験から、性被害の事実が家族や子どもにショックを与えてしまうのではないかと想起して声を出すことをためらってしまう事例もある。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は医学において「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受けるなどの精神的衝撃を直接経験する・直に目撃する」ことが基準の一つとなっている。同意の上での性行為による妊娠・性感染症の検査により、被害者がPTSDを発症したというよりも、性的暴行により発症したと考える方が自然である。
性暴力に対する誤った理解に基づく不当な判決を変えるために、大勢の人が裁判に注目していることを目に見える形にしていかなければいけない。
◆ 支援員 木村なぎさん【性暴力被害ワンストップ支援センターとやま】
性暴力被害の相談は年々増えているが、「忘れてしまいたい」「性的なことを話すのが恥ずかしい」などの理由から被害者の6割は相談につながっていない。今回の事件で勇気を出し、声をあげた被害者を、裁判官が自身の経験則のみを基に「なぜ逃げなかったのか」「なぜ助けを呼ばなかったのか」と責める形になっている。国として性犯罪・性暴力の対策強化に取り組んでいるが、被害者の実情を学んでいない裁判官が判決を下し被害者が更に傷つくことはあってはならない。
報道がどのように取り上げるかによって、聞き手の受け取り方が全く変わってくる。一審判決を取り上げた一部記事には「事実認定に疑いが残る」「女性の証言に疑問」など、まるで被害者に問題があるかのような見出しが打ち出されていた。被告人への取材がヒーローインタビューのように取り上げられることもあった。報道は大変な影響力があり、事実を正確に伝えることが求められる。事実を見極める知識をもった上で、判決が確定するまでしっかりと報道してほしい。
暴行脅迫要件がなくなり、同意のない性的行為が犯罪となる未来は必ず来る。今後の活動やフラワーデモを通じて、司法だけではなく社会全体に訴えかけていく。
今回のシンポジウムでは
「裁判官は法の専門家ではあるが完璧ではなく、むしろ教育が必要である」こと、
「司法だけでなく社会全体に向けて啓発を行い、考え方を変えていく必要がある」ことが、
共通の課題として確認されました。
控訴審に向けて、戦いはまだこれからです。当会の活動へのご賛同・ご協力のほど、引き続きよろしくお願いいたします。